有責配偶者からの離婚請求について

有責配偶者とは

自ら離婚原因を作って婚姻関係を破綻させた者をいいます。

有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。

その理由は、このような離婚請求が認められると、相手方は「踏んだり蹴ったり」の状態になってしまう(最判昭和27年2月19日民集6巻2号110頁)からであると説明されています。

このような、離婚を請求する側に、浮気等の婚姻の破綻につき責任のある場合は、実質破綻状態でも離婚を認めないという立場を消極的破綻主義といいます。

これに対し、実質的に破綻していれば、離婚を請求する側に、浮気等の婚姻の破綻につき責任があるかどうか問わないという立場を積極的破綻主義といいます。

 

この消極的破綻主義のもとでも、離婚請求を受ける側にも有責性が認められる場合には、 当事者それぞれの有責性を比較し、離婚請求者の側により大きな責任があるのでなければ離婚請求を許すとした判例(最判昭和30年11月24日民集9巻12号1837頁、最判昭和31年12月11日民集10巻12号1537頁)や、請求者の有責性が婚姻破綻を招いたのでない場合には、 同様に離婚請求を許した判例(最判昭和46年5月21日民集25巻3号408頁)があります。

 

① 最判昭和30年11月24日民集9巻12号1837頁

破綻につき、妻にいくらか落ち度があっても、夫により多くの落ち度がある場合には妻からの離婚請求を容認してよい。

 

 

② 最判昭和31年12月11日民集10巻12号1537頁
 

破綻につき、夫婦双方が同程度の責任がある場合には、双方からの離婚請求を認容

 

③ 最判昭和46年5月21日民集25巻3号408頁

夫が、妻との間の婚姻関係が完全に破綻した後に、妻以外の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送ったとしても、これをもって離婚請求を排斥することはできない。

 

 

また、最高裁は、④ 最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁、判タ642号73頁において、例外的な場合に有責配偶者からの離婚請求を認める旨の判断を下しました。

 

 

「有責配偶者からされた離婚請求であっても、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子がないこと、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者の離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」

 

として、同居期間12年、別居期間36年あまり、未成熟子のいない事案で、夫からの離婚請求を認容しました。

 

 

相当の長期間の別居とは?

「相当の長期間」とは何年であればよいのでしょうか?

 

この点、「別居期間が短いケースにおいては、別居後の両当事者の態様(生活費を支給していたかどうか)が重視されていることがわかる。」(大村敦志「家族法」[第2版]147頁)とか、「各要件ごとではなく、有責性の高さも含め総合評価では?」(水野有子「離婚請求と慰謝料請求の審理」弁護士専門研修講座「離婚事件の実務」収容106頁)とされていることに注意を払う必要があります。

 

いくつかのケースを見てみましょう。

客観的な期間だけで判断していないことが分かります。

 

別居8年で否定した例です。

⑤ 最判平成元年3月28日判時1315号61頁、判タ699号178頁

有責配偶者である夫からの離婚請求において、事実審の口頭弁論終結時、夫69歳、妻57歳、婚姻以来26年余同居して2男2女を儲けた後、夫が他の女性と同棲するため妻と別居して8年余になるなどの事情のあるときは、夫婦の別居期間が双方の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶということができず、右離婚請求を認容することができない。

 

同居約23年、別居8年弱でも、子供は成人し、1億数千万円の財産関係の清算の提案をしている等の事情のもとで、夫=有責配偶者からの離婚請求を棄却した原判決を差し戻した例

 

⑥ 最判平成2年11月8日家月43巻3号72頁、判タ745号112頁

「上告人(夫=有責配偶者)は、別居後においても被上告人(妻)及び子らに対する生活費の負担をし、」

「本件婚姻関係において、すでに未成年の子はなく、離婚に伴なう財産関係の清算につき、充分な提案がなされ、その総額は1億数千万円の対価であるにかかわらず、被上告人はこれを拒み、その離婚条件として、3億余円の時価評価のある上告人所有の土地建物と、同各不動産に設定登記ある9000万円に達する銀行よりの債務を上告人が負担することを求め、上告人に対し履行不可能な条件を提示したことにより、上告人の誠意ある提案を合理的理由なく拒絶し、且つ、同各不動産に対し、処分禁止の仮処分をなすに至っているものである。」

 

「相当の長期間は、婚姻関係継続の実質的理由と有責配偶者の責任として離婚に伴なう財産関係の清算につき、誠意ある解決の提案をなしたかどうか、との相関関係において理解されるべきところというべきである。」

 

「8年の別居に至る婚姻関係の実態、離婚に伴なう清算についての誠意ある提案、これに対し、別居前の多額の生活費を受け取るのみの事実上の家庭内別居状態の継続とこれによる別居の開始継続が、8年間におよんだ場合には有責配偶者としての責任はこれを許容するとしても、離婚の請求を安易に承認させる結果となることはなく、相当な期間は経過したものというべきであり、原判決は、かかる解釈を誤ったものというべきであり、判断の誤りは原判決の結果に影響を与えること明かである。」 

 

別居期間6年でも、相手にも相当程度責任がある事案で離婚が認められたもの

⑦ 東京高判平成14年6月26日判時1801号80頁

(最判平成14年11月14日で原審の判断を維持)

夫は有責配偶者で、別居期間は6年以上、2人の子も成人して大学を卒業していて夫婦間に未成熟の子供がいないこと、妻は学校に勤務して相当の収入を得ていること、夫は、離婚に伴う給付として妻に自宅建物を分与し、同建物について残っているローンも完済し続けるとの意向を表明していること、破綻の主たる原因は夫にあるが、妻にも相当程度責任があるという事情を考慮し、離婚請求を認めた。

 

別居とは?

生活の本拠を異にすれば、別居ということになるのでしょうが、次のような裁判例があります。

 

⑧ 東京高判平成9年2月20日判時1602号95頁

(上告棄却で確定)

別居期間20年、夫妻とも80歳に近い年齢で、不貞相手と同棲中の夫が月に何度か妻のところに来て自宅に泊まる、冠婚葬祭に夫婦として出席する、夫婦で映画を観る、出張先のお土産を届ける、妻の旅行には小遣いを渡す等の関係を続けていたという事案で、有責配偶者の離婚請求を正当化するほどの夫婦関係の長期間の形骸化の事実は認められないとして離婚請求を棄却した。

 

家庭内別居はここでいう「別居」にあたるのでしょうか?

客観的に別居しないと破綻といえないという見解も有力です。しかし、洗濯をしているのか、掃除をしているのか、部屋はどんなふうに使っているのか、ご飯はつくっているのかといった具体的事情のもとで、別居しようにもお金がないということで仕方なしに同居している場合もありうるので別居期間に算入できることもあるというべきです。

 

単身赴任は?

仕事の都合で別居にはならないというのが原則ですが、仲が悪くなったから単身赴任したというような関係があれば、単身赴任も別居として考慮してよい場合があると思われます。

 

 

未成熟の子とは?

④、⑥、⑦の判例は、子供のいないケースで、いずれも離婚が認容されたものです。

 

未成熟の子は、未成年者とは同義ではないようです。

 

⑨ 最判平成元年9月7日集民157号457頁

有責配偶者である夫からの離婚請求であっても、夫婦の別居期間が約15年6か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に4歳時から実子同然に育てられて19歳に達しており、妻は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によって生活してきたものであり、しかも、妻が離婚によって被るべき経済的・精神的不利益が離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないなど判示の事情の下では、右離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。

 

⑩ 最判平成6年2月8日判時1505号59頁

有責配偶者である夫からされた離婚請求であっても、別居が13年余に及び、夫婦間の未成熟の子は3歳の時から一貫して妻の監護の下で育てられて間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫が別居後も妻に送金をして子の養育に無関心ではなかったこと、夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付も実現が期待できることなど判示の事実関係のもとにおいては、右離婚請求は、認容されるべきである。

 

⑩と⑪を比較すると、高校生くらいまでを未成熟の子としているようです。

 

⑪ 大阪高判平成19年5月15日判タ1251号312頁

有責配偶者である夫からの離婚請求につき、別居調停後約13年経過(家庭内別居から15年)し、18歳と16歳2人の未成熟の子がいる場合において、慰謝料150万円と二男の大学進学費用150万円を支払う旨の訴訟上の和解をした上で、原判決を取り消し、請求を認容した。

 

以下のような裁判例があり、未成熟子は年齢だけでなく具体的状況で判断するようです。

 

⑫ 東京高判平成19年2月27日判タ1253号235頁

(上告棄却で確定)

別居9年以上(同居約14年)の夫婦で、離婚を求められた相手方配偶者(妻)は、その年齢(54歳)からしても就業して収入を得ることが困難な状態にあり、また、住居明け渡しの問題もあり、離婚により直ちに経済的困窮に陥ることが十分予想される上、その長男は、四肢麻痺の重い障害を有するため、日常生活全般にわたり介護を必要とする状況にあり、他方配偶者(妻)がその長男と同居し介護している事案において、成人に達していても未成熟の子と同視することができるとして、離婚請求を棄却した。

 

⑬ 東京高判平成20年5月14日家月61巻5号44頁

有責配偶者である夫からの離婚請求につき、別居期間が15年以上経過し、当事者間の3人の子はいずれも成年に達しており、夫婦間の婚姻関係は既に破綻しているが、妻は夫から婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなると経済的な窮境に陥り、罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況になることが容易に予想されるとともに、長男については、身体的障害及びその成育状況に照らすと後見的配慮が必要と考えられ、夫の長男に対する態度からすると、離婚請求が認容されれば、妻が独力で長男の援助を行わなければならず、妻を更に経済的・精神的窮状へ追いやることになるとの事情の下においては、離婚請求を認容することは、妻を精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態におくことになり、著しく社会正義に反し許されない。

 

苛酷条項

 

別居中の婚姻費用を一生懸命誠実に支払うことは、有責配偶者からの離婚請求が認められるための絶対条件のようです。

 

⑭ 最判平成6年2月8日家月46巻9号59頁、判時1602号95頁

同居期間15年、別居期間13年11ヶ月、夫56歳、妻54歳、4人の子供のうち3人は成人し、1人は3歳時に別居し、間もなく高校を卒業する年齢になる、夫は女性と同棲している事案で、夫は月々15万円の生活費を送金してきたという実績があり、また子供の養育にも関心があること、離婚に伴う経済給与も700万円の申し出があり、その実現も期待できることから離婚請求を認容。

 

⑮ 東京高判平成9年11月19日判タ999号280頁

(上告棄却で確定)

同居期間6年、別居期間13年、夫は会社員だが月収80万円、2人子供があり、高校3年生と中学2年生。夫は女性と同棲している事案で、夫から月25万円の生活費送金があるものの、妻は実家から月20数万円の援助を得ているというので、夫のこれまでの毎月の送金は妻や子供たちの生活費をまかなうには不十分であり、将来にわたり同じような援助の継続が期待できないとして離婚請求を棄却。

 

それに加えて、離婚後の財産給付も絶対必要です。

 

⑯ 東京高判昭和62年9月24日判時1269号79頁

子供は3人とも成人に達して経済的にも独立しているケースですが、離婚が成立した場合は、控訴人は被控訴人に対し全財産の半分程度は分与してよいとか、家の敷地の2分の1を分与し、その余は自らの生活設計のために処分するほか、その方策については具体的方策を欠くばかりか、被控訴人が現に居住している家屋全部を被控訴人のために確保ないし分与する意思もなく、被控訴人の今後の居住場所につきほとんど配慮していないことが窺われ、控訴人の本件離婚請求はすでにこの点においてその正当性を欠くものであるとして離婚請求を棄却。

 

⑰ 神戸地判平成15年5月18日判例集未搭載

原告(夫)と被告(妻)との婚姻破綻の原因は、もっぱら、原告の女性問題にあったものと認められ、かつ、別居後、原告は、何ら被告及びその子らの生活を顧みることがなかったもので、その有責性の程度も極めて重いものであること、加えて、原告は、被告に無断で協議離婚届を出すといった行為にまで及び、被告をして、その誤った戸籍記載を是正するために離婚無効の訴訟を提起せざるを得なくさせたものであること、さらには、原告は、離婚無効の判決が確定し、婚姻記載が復活するや、ほどなく離婚調停を申し立て、本件訴訟の提起に至ったものであるうえ、本件訴訟においても、被告に対する慰謝の方途を講ずる提案はないばかりか、むしろ、婚姻破綻の責任の大半は被告にあると主張して離婚を求め、これに対し、被告は、夫として親としての情や責任、義務をまったく果たしていない原告の離婚請求を受け入れることはできないと主張しているといった本件の一連の経緯にも照らすと、その別居期間が既に17年を超える長期間に及び、原告と被告との間の子らも成人し、結婚あるいは就職していること等を考慮してもなお、原告の離婚請求をそのままこれを認容するのは、正義、公平の観点からも、また、信義則に照らしても相当とは認めがたく、有責配偶者の離婚請求としてこれを棄却するのが相当である。

 

上記裁判例は、前提事実として、被告(妻)が受け取った金額は、ローンの支払い後の退職金のうち100万円だけであり、3人の幼い子をかかえて生活に困った被告は、原告の実家である高知県の原告の母親宅に身を寄せ、生活保護を受ける等して子供らを育て上げたこと、役場から生活費及び養育費の話し合いを原告とするように指示され、神戸市D区の原告の勤務先を訪問し、原告と話し合ったが、その直後に原告は勤務先を退職し、原告からの送金等はその後も得られなかったこと、本件訴えにおいても、原告からは、被告に対する慰謝の方途を講ずるに足りるような提案はなされておらず、被告は、その本人尋問において、慰謝料も何も支払わないという原告からの離婚請求には応じられず、少なくとも、長男Bの結婚までは離婚せずにいたい旨を述べていることを認めたものでした。

 

 

 

 

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