マッチングアプリでの不倫について
1 マッチングアプリを使った不倫とは
⑴ マッチングアプリを使った不倫
特にコロナ禍以降、マッチングアプリは出会いのツールとして主流となってきており、独身の男女だけではなく不倫のきっかけにもなっています。実際、マッチングアプリを使った不倫は、近年増加する傾向にあり、大阪和音法律事務所でもご相談が増えています。
マッチングアプリによる不倫と通常の不倫の大きな違いは、「そもそもの出会い自体が異性交際が目的である」という点です。通常の不倫であれば、職場などで自然と出会い、徐々に関係を深め、恋愛感情を抱いて不倫に入っていきます。しかし、マッチングアプリによる不倫の場合、それらの過程を経ずに、手軽に、直ちに恋愛関係、肉体関係に入っていく、という特徴があります。
⑵ マッチングアプリで不倫を求める動機や目的は?
配偶者が自ら進んでマッチングアプリに登録しているということは、自ら積極的に不倫関係を求めていることを意味します。
そこには、以下のような様々な動機や目的が存在します。
例えば、
・配偶者とのセックスレスが続いている
・配偶者との関係性が非常に悪く、仮面夫婦となっている
・配偶者を愛しているが恋愛対象としてみることができない
・配偶者に異性としてみてもらえない
・恋愛体質で、常に恋愛の幸福感や快感を得ている必要がある
・生活に満足しているが刺激が欲しい
・気軽にセックスできる相手を作りたい
このように、ちょっとした出来心から本質的なものまで、動機は様々です。
しかし、以前であれば、不倫関係に入るには、まずはリアルな人間同士の交流が必要となり、それなりのプロセスや人間関係構築を踏む必要があったのが、マッチングアプリの普及により、それがより手軽に、安易に手に入るようになってきていると言えます。これは、それだけ不倫が起こりやすい土壌ができているということも意味します。
2 マッチングアプリの不倫で不倫相手に慰謝料請求ができる場合とできない場合
配偶者が不倫をしている場合、不倫相手に対して慰謝料請求をすることが考えられます。
しかし、マッチングアプリをしているからといって全てが法的な慰謝料請求の対象となる不倫となるわけではありません。
⑴ 肉体関係をもっている場合は慰謝料請求が可能
肉体関係を持つ不倫の場合には、不倫相手に対しては慰謝料請求をすることができますし、法的に配偶者に対して離婚請求をすることもできます。
ただし、マッチングアプリでの不倫の相手に対して慰謝料請求をする場合、以下の点に注意が必要です。
⑵ 注意点① 既婚者であることの認識
慰謝料を請求する不法行為となるためには、不倫相手に、「既婚者であることの認識」が必要です。しかし、マッチングアプリを利用して肉体関係を持った場合、細かい過程を経ずに肉体関係に入ることが多いため、「既婚者と知らなかった」と言い訳されてしまう場合があるのです。
この点、マッチングアプリの中にも、婚活用の独身限定のものから、W不倫を目的とする既婚者専用のもの、既婚者ありのパパ活用アプリなど、さまざまな種類があります。
まず、既婚者専用のアプリが使用されている場合、相手も「既婚者と知らなかった」という言える場合は少ないです。
しかし、独身者も利用するアプリの場合は、相手も「本当に既婚者とは知らなかった」という場合があり得ます。実際、独身者も利用するアプリで既婚者が「独身です」と偽って登録して利用しているという悪質なケースもあります。そのような場合は、相手も独身と騙されて真剣に交際をしていただけですので、慰謝料を請求するのは難しくなります(過失責任で慰謝料請求をすることはできる可能性はありますが、慰謝料額は数十万円程度など、かなり低額となります)。むしろ、独身と騙されて交際していた人が、独身と偽っていた配偶者に対して慰謝料請求をする、というケースもあります。
なお、既婚者がこのような形でアプリを利用している場合の兆候として、
・昼間は連絡が取れるのに20時以降は急に連絡が取れなくなる
・週末は「趣味や仕事などで忙しい」といってなぜか会えない
・なぜかLINEに移行したがらない
などの点が挙げられます。
⑶ 注意点② 肉体関係はない場合(いわゆる「セカンドパートナー」)
いくら恋愛関係にあったとしても、肉体関係がない場合には、慰謝料請求をすることはできません。なぜなら、既婚者と肉体関係をもつことが、民法上不法行為(民法第709条)と評価されるからです。
ここで注意が必要なのが、いわゆる「セカンドパートナー」と呼ばれる存在についてです。
「セカンドパートナー」とは、配偶者とは別の二人目のパートナーのことです。恋愛感情を互いに持っているものの、体の関係を持たないことが不倫との一番の違いです。 あくまでも恋愛をしている時の幸福感や心の繋がりを重視する関係であり、性的な欲求を満たすための関係とは異なるのです。
配偶者の不倫相手と思われる人物が「セカンドパートナー」の場合、慰謝料の請求は難しくなります。なぜなら、セカンドパートナーはプラトニックな関係であり、肉体関係がないからです。
もっとも、セカンドパートナーとプラトニックな関係だったとしても、夫婦関係を破綻させるほど二人の関係性が深いものであることを証明できた場合には慰謝料が認められる場合もありますし、場合によっては、関係を清算してもらい、今後接触しないなどの合意を交わすという形での解決は可能です。
3 慰謝料請求で押さえるべき証拠
配偶者がマッチングアプリで不倫をしているかもしれないという場合、慰謝料請求に向けて何をすべきなのでしょうか?
それはやはり、不倫の証拠を押さえることです。
マッチングアプリをスマホにインストールしているだけでは不倫になりません。
インストールしているマッチングアプリを利用して相手を探し、肉体関係を持った時に不倫が成立します。証拠がない状態で慰謝料を請求しても、相手が不倫を認めなかったり、慰謝料の支払いを拒否されてしまうと、支払いは望めません。裁判になった場合にも証拠がなければ請求は認められません。そのため、慰謝料を請求する前に肉体関係があったことの分かる証拠を集めておくことが大切です。また、配偶者ときちんと話し合いを行うためにも、まずは不倫の証拠を押さえることが大切です。
① マッチングアプリでのやり取りを確認する
まずは配偶者のスマホでマッチングアプリでの不倫相手とのやり取りを確認できる場合は、その中で、肉体関係があることの分かるメッセージ内容や、性行為の動画や写真がないか、をチェックしましょう。
単にメッセージを取り合っているだけの関係であれば、不倫関係とは呼べません。あくまで肉体関係の証拠が必要です。実際に会って肉体関係を持ったようなたようなやり取りがないかどうか、探してみましょう。
② 既婚者の認識に関する証拠
マッチングアプリでの不倫の場合、「既婚者と知らなかった」という言い逃れをされる危険があります。そこで、まずは使用されているマッチングアプリが「既婚者限定」のものかどうか、をチェックしましょう。もし「既婚者限定」のアプリであれば、そのような言い訳は通用しません。
「既婚者限定アプリ」でなくても、プロフィールとして未婚・既婚をどのように紹介しているか、既婚かどうかについてのやり取り等がないか、をチェックすることが大事です。
③ LINEなどのアプリを確認する
マッチングアプリ内のやり取りで、マッチングアプリからLINEなどに連絡手段を移行するような内容が書かれている場合があります。その場合には、LINEの交換している可能性が高いので、LINEで不倫相手と思われる人物とのやり取りを確認してみましょう。
肉体関係そのものに関するやり取り自体がなくても、マッチングアプリやLINEを確認することで会う日時などが特定できれば、探偵や興信所に依頼する際も依頼しやすくなります。
④ 写真や動画を確認する
スマホの写真や動画には浮気の証拠が隠れていることが多いです。ツーショット写真や肉体関係があることの分かる写真や動画などが残されていないか確認してみてください。
ただし、スマホを確認する際には注意しなければならない点があります。それは、不正アクセスになってしまわないようにしなければならないという点です。夫のパスワードやIDを知っているからといってネットワークを通じてアクセスすれば違法行為になってしまう可能性がありますので、十分な注意が必要です。
⑤ その他肉体関係に関する証拠
不倫の証拠については、マッチングアプリでの不倫も通常の不倫も同じです。
ラブホテルホテルのポイントカードや、ホテルの領収書など、アプリ以外から取れる証拠も探してみてください。
確実な証拠がない場合でも、ホテルや旅行の領収書やメッセージ内容など証拠を複数組み合わせることで不倫を立証できることもあるので、証拠はできるだけ多く集めておくことをお勧めします。
なお、マッチングアプリを入れていることを配偶者に問い詰め、白状させるという方法もありますが、これは、最初に撮る方法としてはお勧めはできません。なぜなら、肉体関係の証拠がなければ、否定されたらどうしようもありませんし、問い詰めることで配偶者を警戒させる結果となり、ますます証拠が取りにくくなってしまうからです。結果的にこの方法でうまくいく場合はありますが、あくまで証拠が取れない場合の最後の手段として考えるべきでしょう。
3 離婚をすべきかどうか
配偶者がマッチングアプリで不倫をしている場合、離婚をするかどうか、という点も問題となってきます。
⑴ 関係修復ができない(しない)場合の戦略
まず、不倫をされていたということで「絶対に相手を許せない」「もう夫婦としてやり直すことはできない」と思う方もいると思います。そのような方は、別居・離婚という方向で進めてよいでしょう。不倫があったということであれば、民法上の離婚原因である不貞行為(民法770条1項1号)に該当しますので、もし相手が離婚に同意してくれなくても、最終的に離婚訴訟で離婚の判決を勝ち取ることが可能です。
次に、経済的な理由からあえてこちらから積極的には離婚を求めないという戦略もあります。
不倫をした配偶者は、法的には「有責配偶者」となり、自ら離婚請求をすることが原則としてできなくなります(離婚訴訟を起こしても敗訴します)。したがって、こちらから積極的に離婚を求めるのではなく、不貞をした配偶者から離婚したいと言わせる形をとって、条件交渉を有利に進めるといった戦略も可能となります。
⑵ 関係を修復するかどうか迷う場合
「子供が幼い」「経済的に配偶者に依存している」などの事情で、離婚については迷う方も多いと思います。場合によっては、「できれば不倫をやめてもらい、修復したい」と考える方も多いでしょう。この場合は、関係修復に向けた配偶者との話し合いが重要となってきます。
マッチングアプリで不倫をしている証拠を押さえたとしても、配偶者を責めるだけでは、問題の解決にはなりません。この場合に大事な視点は、「自分自身が変わることで変えられる問題なのか」という点です。
マッチングアプリでの不倫の大きな特徴は、「配偶者が自ら不倫を求めていた」という点です。この場合、配偶者であるあなたとの関係に大きな問題を抱えており、それが不倫のきっかけとなったというケースは非常に多いです。
もし、出会いを求めた原因が、刺激が欲しい、セックスレスへの不満、といったことであれば、あなた自身がセックスレス解消に向けて努力するなど、自分自身が変わることでその原因を解消できる可能性があります。逆に、配偶者が恋愛体質であるとか、既にあなたに対して愛想を尽かしてマッチングアプリの利用を始めたという場合は、あなた自身が変わることではどうしようもないという場合もあり得ます。
夫婦関係の修復を目指すのであれば、あなた自身にも改善が必要になります。
その上でなお、関係改善が望めない場合に、離婚の道を検討することになります。
4 さいごに
マッチングアプリは出会いのツールとして普及しており、独身の男女だけではなく不倫のきっかけにもなっています。マッチングアプリを使った不倫は、通常の不倫とは異なる特徴があり、検討すべき対象も特殊な部分があります。
慰謝料請求や離婚に向けて進める、あるいは離婚するかどうか決めかねている、という場合、証拠の有無を踏まえた戦略が重要です。特に証拠の有無が重要な不貞行為については、最初の一歩を間違うと、その後ずっと不利な立場での交渉を続けざるを得ないことになりかねず、専門家である弁護士の意見が不可欠です。
大阪和音法律事務所では、マッチングアプリを利用した不倫の慰謝料請求や離婚の案系を多数取り扱っております。
一人で悩みを抱え込まずに、まずは大阪和音法律事務所にご相談ください。
(執筆:弁護士田保雄三)