退職金
退職金は、「これまでに勤務してきた期間に対応する給与の一部を退職時にまとめて支払うもの(給与の後払い)」という性質がありますので、まだ退職金が将来支給される予定であるというタイミングでも、一定の範囲で財産分与の対象にすることができます。
ただし、財産分与の対象となる金額は、これまでに勤務してきた期間のうち、結婚時から別居時までの期間に相当する金額に限ります。
また、財産分与の時点で「退職金が将来支給される予定である」という状況である場合は、今後会社の経営悪化(ひいては倒産)や、相手方が懲戒解雇されるといった状況が生じることにより、実際には退職金が支給されないことになるということも考えられます。こういった状況が生じる可能性を考慮すれば、財産分与の対象となる金額を一定限度で減額するということも考えられます。また、実際に退職金が支給される年齢に達するまでの期間が長いほど、上記のような状況が生じる可能性は高くなるといえるため、減額する金額も大きくなるといえます。
では、財産分与の対象となる退職金の金額はどのように計算すべきでしょうか?
この点については、法律上一定の定めがあるわけではありませんが、たとえば以下のように算定することが考えられます。
具体例:夫が22歳から勤務開始、30歳で結婚、52歳の時に別居、65歳が定年年齢。夫が54歳の時点で財産分与の協議をする場合。
別居の時点で夫が自己都合退職したと仮定した場合の退職金の金額を算定⇒1000万円
別居時までの夫の勤務年数は30年、その間の婚姻期間は22年であるため、1000万円×22年/30年≒733万が一応の対象
ただし、協議時(夫54歳)から定年までまだ10年以上期間があるため、その間の会社の経営悪化や、相手方の懲戒の可能性等を考慮し、一定割合で減額をすることになると思われます。
その上で、算定された金額を夫婦で折半することになります。
上記のように退職金の財産分与の金額を計算しても、現実に夫が退職金の支給を受けられるのは10年以上先ということになりますので、現時点では夫が支払えるだけの現金を持っていないこともあり得ます。その場合は、分割払いの方法や、不動産などの他の資産で支払うということも検討する必要があります。
なお、会社独自の退職金制度がない中小企業であっても、会社が中小企業退職金共済制度に加入している場合は、退職時に退職者に退職金同様に現金が支給されます。また、個人事業主や会社の役員であっても、小規模企業共済に加入して退職金の準備をしているケースもあります。これらの場合も退職金の考え方を参考に、夫婦で協議を行う必要があります。
以上のように、退職金を財産分与の対象に含める場合は、専門的な知識と計算が必要になってきますので、同様の事案を多く扱っている弁護士に相談されることをお勧めいたします。