授かり婚は離婚しやすい?弁護士が教える離婚を考えた時にすべきこと
1 授かり婚は離婚しやすい?
授かり婚(出来ちゃった婚)は一般的に離婚しやすいと言われています。
例えば、
・学生同士で付き合っているうちに子供を授かり、そのまま大学を中退して結婚するパターン
・交際しているけれどもなかなか結婚に踏み切れない中、子供ができたので籍を入れることにしたパターン
などが典型的なケースです。
授かり婚は、統計的には、10代と20代がかなりの割合を占めており、それ以外の年代と比べて離婚率が高くなっています。
このような若い夫婦が、授かり婚で離婚するケースが多い理由は何なのでしょうか。
夫婦関係を修復するにしても、離婚するにしても、うまくいかない一般的な原因を知り、離婚を考えたときにどういう点に気を付けるべきかを知っておくことは重要です。
授かり婚で離婚する理由は様々ありますが、主に次の点に集約されます。
⑴ 親になる心の準備が整っていない
「子どもが出来てしまったから結婚した」場合、親になる心の準備が出来ていない状況で結婚することを決める、ということが多いです。
子供ができると、生活が一変します。
赤ちゃんがいるということは、常に誰かがそばについていないといけないということですから、当然、これまでの生活パターンではやっていけず、制約を受けることになります。例えば、ランチに行きたい、買い物をしたい、旅行に行きたい、髪を切りたい、と思っても、「その間赤ちゃんの面倒を誰がみるのか、授乳や離乳食、おむつ替え、寝かしつけをどうするか」という問題が常に付きまといます。
特に10代や20代前半の若い方の場合、周りの友人たちは大学生活や独身生活を謳歌していたり、楽しく過ごしていることも多いでしょう。そのような中、子育てや家事で遊びどころではないという生活が突然始まることになります。
中には、「友達はみんな楽しそうにしているのに、どうして私だけこんなに制約されたストレスの多い生活をしなければならなくなってしまったのだろう」と苦しむこともあるでしょう。
こういったストレスを抱えていると、配偶者の自分勝手な行動が目につきやすくなり、喧嘩が増え、離婚に発展していく、ということになりやすくなります。
離婚を考えたときは、そのような自分のストレスの原因を客観視してみることが大事です。具体的には、ストレスの原因を頭から配偶者のせいと決めつけるのではなく、人と比べようとする自分の考え方が原因なのではないか、という視点が大事です。若い方にはこれができていない人が多いです。
もしストレスの原因が自分の考え方にあるのであれば、たとえ離婚しても同じストレスを抱える可能性が高く、再婚と離婚を繰り返す場合もあります。
そのうえで、配偶者に問題がある場合には、建設的な話し合いができる人なのかどうか、という視点で見ることが大事です。
⑵ 交際期間が短く、見極めができない
特に10代や20代前半の授かり婚の場合には、交際期間が短かったり、交際経験も少ないことが多いです。
人を見る目、特に交際相手を見極める目というのは、社会に出て多くの人と触れ合ったり、交際経験を重ねるなど、さまざまな人生経験をへて磨かれていくものです。
また、自分自身、年齢や経験を重ねることで、他人の欠点や自分と異なる点を受け入れられるように変わっていくということもあります。人は自分の思い通りに動いてくれません。自分が未熟だと、そのことにいら立ち、何で察してくれないのか、と怒ったりします。しかし、年齢を重ねることで、人は自分の思い通りには動かないことを受け入れたうえで、どのようにしたら動いてもらいやすくなるか、という自分の問題に置き換えて考えられるようになったりします。
さらに、関係を深めて初めて相手の欠点や異常な性格に気づく、ということもあります。例えば、相手のことを見下し、常に上から目線で偉そうにものを言う、不機嫌になると無視したり物に当たったりするというモラハラ気質などは、同居を始めてから初めてわかるということも多いです。
このように、10代や20代といった若い年齢の時には、人を見る目や重視するポイントが未熟で見極めができなかったり、相手の欠点や自分と違うところを許せないと思うことが多いこともあるでしょう。
そのため、結婚して初めて性格や価値観、生活習慣の違いに気付くことで、「こんな人だと思わなかった」と思い、離婚になってしまうことがあり得ます。
離婚を考えたときは、そのような価値観の違いなどの問題を書き出すなどし、今後長い婚姻生活を送っていく中で乗り越えられる性質のものなのか、を慎重に吟味することが大事です。
⑶ 経済的な問題
授かり婚は若い夫婦の場合が多いため、経済的に十分な余裕がないことが多いです。
中には、学生だったのに子供ができたので中退して結婚する、というパターンもあり、就職すらできていないということもあります。
それにもかかわらず、家族を養っていくというのは、当然、一人暮らしと比べてお金がかかります。若いうちは収入も低く、特に子供が小さいうちは、女性は働きに出ることに制約があることもあるでしょう。すると、毎月の収支がぎりぎりで、安定した生活がなかなか送れないこともあります。
生活が苦しくてカードローンやリボルビング払いを繰り返したり、生活が苦しいのにストレス発散のためにギャンブルなどの浪費をどちらかが始めてしまうというパターンもあります。
こうなると、金銭問題に対する不信感が原因となり、離婚に発展しやすくなります。
浪費癖というのはなかなか治りませんが、金銭問題の解消に向けて具体的な話し合いがどれだけできているか、あるいは話し合いができない状況なのか、という視点が大事です。
⑷ 交際中の問題の顕在化
これは、もともと交際をしていが結婚に踏み切れない事情があった中で、子供ができたので結婚に踏み切った、というパターンです。これに関しては、30代など比較的年齢を重ねている夫婦の授かり婚にもみられます。
この場合、もともと結婚に踏み切れない事情(性格の不一致、浪費、浮気癖)があった結果、結婚後それが表面化した、ということになります。
もともと結婚することに躊躇する事情があったわけですから、ある意味、離婚するべくして離婚するパターンともいえるでしょう。
2.離婚をする場合の注意点
授かり婚ですぐに離婚に至る場合、婚姻期間が非常に短いこと、子供も非常に幼い、などの特徴があります。この場合、どういった点に注意が必要なのでしょうか。
⑴ 離婚で決めなければいけない項目が子供のこと中心になる
離婚の先に決めなければいけないポイントは、8点です。
すなわち、①離婚するかどうか②親権③養育費④面会交流⑤財産分与⑥慰謝料⑦年金分割⑧婚姻費用です。
授かり婚ですぐに離婚に至るケースの場合、婚姻期間が短いため、財産分与があまり大きな問題とならないことが多く、子供に関する問題(②③④)が中心になることが多いです。
⑵ 親権は母親が有利になることが多い
裁判では、父親と母親のどちらが親権者となった方が子どもの福祉という観点からみてより適切かを基準に親権者が決定されます。そこで重要になってくる要素が、これまでに父母のどちらが実際に子どもの世話を主に行ってきたのかという点です。なぜなら、これまで子供が育ってきた環境は、特別な事情のない限りできるだけ維持するべきであると考えられているからです。
授かり婚ですぐ離婚に至る夫婦の場合、子供が非常に幼いことがほとんどです。この場合、どうしても、母親が子供につきっきりという状況になりますから、事実上、親権者として母親の方が有利になる傾向はあります。
もし父親側が親権を取得するためには、
「母親の育児放棄や家事を放棄していること」「父親側の長期間の養育実績」「実家の援助の含め養育環境が整っている」などの事情を証拠をそろえて立証していく必要があり、争うなら裁判までもつれ込むことになります。
そこまでの争いをしていくのかどうか、という点は、その事案での事情や証拠の有無、ご本人の価値観等によって方針が変わってきますので、弁護士に相談しながら進めていくべきでしょう。
⑶ 離婚後の養育費が低額になる傾向
この場合、親権を取る側からすれば、まだ相手の年収が大きくないため、養育費がそれほど大きな金額にならないことに注意が必要です。
そのため、離婚して一人で子供を育てていくための経済的な問題をどのように解決するか、ということをしっかりと考える必要があります。
授かり婚で離婚する場合、年齢が若いため親も現役世代であることも多く、実家に頼ることができるケースは多いです。しかし、実家の両親としても、いつまでも子供を養い続けられるわけではありませんし、親に万が一のことがあったりすれば共倒れになりかねません。
今では、ひとり親に対する支援は充実しています。
母子手当などの各種手当はもちろん、就学支援や家賃補助など、さまざまな点でひとり親に対する各種支援を自治体が行っていることが多いですので、そういった各種手当や支援をよく調べて有効に活用していくことが大事です。
⑷ 面会交流の判断は慎重に
また、授かり婚で離婚する若い夫婦の場合、子供がまだ意思疎通ができないくらいの乳児であることも多いです。そのため、特に男性側は、父親になったという実感があまりなく、離婚後の面会交流についても、「会わないほうが子供のためではないか」「面会交流を続けてしまうと情が出てしまい、辛くなってしまう」などの理由で面会交流をあきらめてしまう方もいます。
その判断がすべて誤っているわけではありませんが、面会交流をあきらめるというのは、今後実の子との唯一の接点を断ち切ることでもありますので、専門家の意見も聞きながら慎重に考えるべきでしょう。
また、面会交流を行っていく実際上のメリットもあります。
親権者にならなかった方にとっては、面会交流を続けていれば、双方の再婚等の情報が入りやすくなり、養育費の増額・減額などの協議を行うきっかけにもなりますし、面会交流を続けていれば愛着がわき、毎月支払う養育費も支払っていこうという気持ちになりやすくなります。
逆に、親権者となった方にとっては、面会交流をきちんとしておいてもらった方が養育費の支払いを受けやすくなるという事実上のメリットもあります。
面会交流は、単に「子供に会うか会わないか」というだけの単純な問題ではないという視点をもって、きちんと判断をしていくことが重要です。
⑸ 争いが親族を巻き込んだものになりやすい
授かり婚で離婚に至るケースの多くは、10代~20代のような非常に若い夫婦です。
この場合、一般の離婚のように二人で話をするというよりも、双方の親が入り、親同士・家同士の話し合いという側面が出てきます。
ただ、双方の親は、基本的には自分の子供の味方ですし、法律問題には素人であることがほとんどです。そのため、双方の親が入って話しているうちに、法的には重要でないポイントで親同士が感情を害してしまい、ますます関係がこじれてしまって協議がしにくくなってしまうこともあります。こうなると、それ以上いくら話し合ってもお互いが素直に受け取れませんので、第三者を間に挟む必要性が高くなってきます。
何が法的なポイントであるのかを正確に見極め、争わなくてもよいところで争ってしまう結果を避けるためにも、早めの段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。
3 さいごに
授かり婚で離婚する場合、通常の離婚とは異なる側面がたくさんありますし、法的観点を踏まえて適切に協議を行わなければ親族を交えて関係がこじれてしまいます。
授かり婚の場合、離婚の際にもまだ若く、再婚の可能性も十分あったり仕事も忙しく泣てくる時期です。そのような大事な時期に解決できない離婚の問題で心身ともに疲れ果ててしまうことは、大きな精神的にも大きなストレスですし、仕事のキャリア的にも大きなマイナスとなります。
できるだけ無駄な争いをせずに解決に向かえるようにするため、早めに弁護士にご相談ください。
大阪和音法律事務所では、非常に多くの離婚案件を取り扱っており、授かり婚の事例も多数経験があります。経験を踏まえて、各事案に応じたアドバイスが可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
(執筆者 弁護士田保雄三)