介護離婚について

1 近年増えている「介護離婚」

高齢化社会の中で義理の両親の介護をする場面は、増えています。

介護の問題は、離婚問題にも発展します。

介護離婚とは、介護を原因とする離婚のことです。

例えば、夫の両親の介護を妻が行っており、過大な負担がかかっているにもかかわらず、夫側に妻の負担に対する理解がなく、むしろ介護して当然というような言動が重なったりすると、妻は、介護に疲れ、離婚を考え始める、といったことが現実に起こっているのです。

介護離婚の原因は、さまざまな場面で発生します。

介護というのは家族の問題であり、夫婦の問題でもあります。

介護が離婚につながっていく場面は、実は非常に多いと言っていいでしょう。

以下、介護離婚が生じるケースを紹介していきます。

 

2 介護が原因で離婚する典型的ケース

① 義理の親の介護を理由とする離婚

多いのが、義理の親の介護が原因で離婚するパターンです。

介護の対象が、義理の親の場合、もとは他人ですから、より負担が大きいといえるでしょう。もともと不仲だと、感謝の言葉もなく、かえって嫌味や小言を都度聞かされるかもしれません。

また、一生懸命やっているのに、普段介護をしていない義理の兄弟姉妹がたまに帰ってきたときに介護方針に口を出してきて揉めることもあります。

そのときに、配偶者が義理の家族との間をとりもってくれることもなく、我関せずの態度を取っていると、献身的に介護をしている側は離婚して楽になりたいと思うようになっていきます。

② 自分の親の介護を理由とする離婚

介護が大変なのは、たとえその対象が自分の親だったとしても同じです。

むしろ、実の親子だからこそ、介護される親が遠慮なく文句を言ったりすることもあるでしょう。

また、実家が遠方の場合では、介護を自分だけで行っていくことには限界があり、実際には配偶者の協力や理解が不可欠です。

それにもかかわらず、配偶者が介護について何らの援助もしてくれない、だからといって家事も分担してくれない、さらに「家事をおろそかにしないで欲しい」、「自分の親のことばかりして」などという発言が重なると、一気に離婚を考え始める、ということになっていきます。

③ 配偶者の介護を理由とする離婚

配偶者が病気やけが、加齢で介護を要する状態になる場合もあります。

この場合、介護の負担は金銭的にも精神的にもとても大きいものとなります。

介護される側は体が思うように動かないストレスから機嫌が悪くなり、介護している配偶者につらく当たることもあり得ます。また「自分の介護は妻がして当然」という考えで、介護をしてくれている妻に対して暴言を吐くケースもあります。

逆に、介護する側は、介護のために仕事をセーブしたり、場合によっては退職を余儀なくされる状況となり、経済的にも大きな負担がかかってきます。

家計は自分が支えなければという焦りや不安を抱えながらの介護をしている中で、介護を受ける配偶者から心無い言葉を投げつけられると、自分は何のためにこのつらい介護をしているのだろうと思うこともあるでしょう。

こうなると、介護をする側もされる側も疲弊して、離婚に至る、ということになっていきます。

特に、そもそも関係が良好でなかった夫婦は、配偶者の介護なんて絶対に嫌だと考え、離婚に踏み切るといったことも考えられます。

④ 障害を持った子供の介護を理由とする離婚

自分の子供に障害を持った子がいる場合、育児にかかる親の肉体的・精神的負担は非常に大きいものです。場合によっては一般の保育園等では預かってもらえず、多くは母親が終始子供につきっきりとなります。

逆に、父親は、子供の障害を受け入れられないというような気持から、育児に対して関心を失っていくケースもあります。

こうなると、妻が夫に対して愛想をつかして離婚を求める、ということになっていきます。

 

3 介護離婚の真の原因

  このように、介護が原因で離婚に至るケースを見てきましたが、実は、介護というのは「きっかけ」に過ぎません。

たとえ介護が大変でも、配偶者に理解があり、労りの言葉をかけてくれたり、協力を惜しまない行動をとってくれれば、通常、夫婦が離婚に至ることはありません。

  では、真の離婚の原因は何なのでしょうか。

それは、介護は妻がして当然」という考えや発言、介護への非協力的態度、といった、配偶者の無理解にあるといっても過言ではありません。

 

介護が原因で離婚に至る夫婦の間には、必ずこういった事情が存在します。

一般的には、妻が介護を行い、夫がそれに対する理解を欠いている、というパターンが多いですが、夫と妻が反対でも同じことが言えます。

たとえば、夫側に「介護は妻がして当然」という考えがあると、介護をしても感謝されず、協力もなく、やって当然といった態度を取る。

むしろ、愚痴をこぼせば「わがままだ」といわれたり、家事がこれまでのようにできなくなることに対して責められることもあります。

特に夫にDVやモラハラの傾向がある場合には、夫が「介護は妻がして当然」という考えを持っているため、その傾向が顕著です。

このように、介護離婚といっても、介護はきっかけに過ぎず、真の原因は配偶者の無理解や介護に対する考え方に端を発しているといえるでしょう。

実際、介護そのものが問題なのであれば、介護認定を受けて適切にヘルパーの援助を受けたり、施設への入所を検討したりすることで解決できることが多いです。

離婚に進むのかどうか、という点は、真の問題が、介護自体の大変さにあるのか、配偶者の考え方にあるのか、そして配偶者が考えを改めてくれる可能性はあるのか、という観点から考えるとよいでしょう。

その上で、離婚を決意した場合には具体的な離婚に向けた方策を考える必要があります。

 

4 介護を拒否することの問題は?

 ⑴ 介護を拒否しても大丈夫?

介護離婚を考える場合、介護を拒否することを考える方もいると思います。では、まだ離婚していないのに、義理の親の介護を拒否することは、法的に問題はないのでしょうか。

民法上、義理の親の扶養義務については、原則として直系血族(この場合は夫)とその兄弟姉妹です(民法8771項)。

夫婦には、互いを扶助する義務がありますので(民法752条)、間接的には責任を負うとも言えますが、親の介護についてはあくまでも実の子が行うべきだ、といえます。

したがって、法的には、義理の親の介護をする直接の義務はありません

義理の親の介護を拒否したからといって、いわゆる有責配偶者になることは通常はありません。

 

 ⑵ 配偶者の介護を放棄することの問題

では、配偶者の介護を放棄することは、法的に問題はあるのでしょうか。

この点、配偶者には扶養義務がありますので、同居している中でいきなり介護を放棄することは法的に問題があるといえるでしょう。

ただ、すでに関係が悪くなり、別居している中で相手が介護状態になったという場合には、介護をしなかったからといって法的に直接問題となることは少ないでしょう。

 

⑶ 扶養義務違反にならずに介護から手を放すには

ただ、いずれにしても、「現に介護をしている」という場合は、いきなり放棄することは法的に問題があるでしょう。

逆に、施設入所の段取りをつけたりしたうえで介護から手を放すのであれば、扶養義務に違反することはありませんし、法的には問題ありません。

実際、同居している場合で他に誰も介護する人がいない状態で、介護をある日突然放棄すると、「保護責任者遺棄罪」という犯罪に該当してしまうこともありますので、少なくとも施設に入所させるといった対応は必要でしょう。

 

5 介護を理由に離婚できるのか

⑴ 介護は離婚原因になる?

民法上、法律上の離婚原因としては、以下の5つが定められています。

①不貞行為

②悪意の遺棄

3年以上の生死不明

④回復の見込みがない強度の精神病

⑤その他の婚姻を継続しがたい重大な事由

 通常、介護が必要というだけではこれらの離婚原因には該当しません。

 

介護を理由とする離婚が認められるかは5つ目の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかが問題となります。

  この点については、婚姻関係が「破綻」していると言えるかがポイントです。

  「破綻」とは、簡単に言うと、法的にみて夫婦関係が修復不可能と客観的に認められる状態のことです。

頭の中で「破綻している」と思っているだけでは足りません(例えば、不貞行為や暴力などは客観的に明らかな行為が典型です)。

そうすると、介護離婚の場合も、客観的に修復不可能だといえる具体的事情がどれだけあるか、ということがポイントとなります。

例えば、

・自分が夫の親の介護をすべて行ってきたこと

・夫が一切介護に協力してくれないこと

・介護をしている妻に対する夫の心無い発言

・話し合いを行ったが理解が得られない

などの事情が大事になってきます。

このような事情は、なかなか証拠に残すことが難しいものです。

しかし、例えば、話し合いや発言がラインに残っている場合は、話し合いの内容を一部裏付ける客観的な証拠といえるでしょう。

また、どのような介護を自分が行ってきたかを記録しておくことも大事です。

このような具体的事情をどれだけ積み重ねられるかが重要なポイントになります。

 

もっとも、話し合いが決裂した結果、別居に至ったという場合、別居が年単位で続いているなどの事情があれば、別居自体が破綻を裏付ける重要な要素になりますので、介護に関する証拠が少ないからといってあきらめる必要はありません。

 

⑵ 交渉で離婚できる場合

また、介護を理由に離婚するためには、相手の同意が得られるかどうかが重要です。

なぜなら、同意が得られずに裁判になった場合、介護のみでは法定の離婚理由に該当しないことが多いからです。

ただ、実際には、うまく交渉すれば、短い期間で離婚に至るケースはたくさんあります。

「介護を理由に離婚できるか」というのは、あくまで裁判までもつれ込んだ場合の話であって、それまでの協議や調停の段階で相手が同意すれば、法律上の離婚原因があるかどうかは、実は大きな問題ではありません。

このように、交渉で離婚できるかどうか、という点については、交渉の仕方や話し合いの進め方の巧さによるところが大きいでしょう。

 

⑶ 介護放棄と財産分与はどうなる?

配偶者の介護を放棄したとしても、財産の取り分に影響することは基本的にありません。

「財産分与」は、夫婦が協力して形成した財産を、原則として2分の1にするという制度です。夫婦の取り分の割合が修正されるのは、特殊な資格や才能で多額の資産を形成した場合など、財産形成の貢献度が半々とはいえない場合です。

 介護離婚の場合、財産分与の割合の修正については心配する必要はないでしょう。

 

 ⑷ 障害を持つ子の養育費

子供に障害があることを踏まえて、「養育費」を相場より多く受け取ることはできるでしょうか。

結論的には、可能です。

一般的には、夫婦の収入や子供の年齢がベースとなっている「養育費算定表」を参考に金額を決められます。

しかし、算定表で考慮されているのは、標準的な医療費や教育費等です。

そのため、子供の治療費や通院費、施設入所費等に相当の金額がかかるという場合は、そのことを主張立証していくことで、算定表以上の額の養育費をもらえる場合はありますので、弁護士さんと相談しながら進めていくべきだといえるでしょう。

 

⑸ 介護離婚と慰謝料

介護に関する配偶者の言動が原因で、うつ病などの精神的な病を発症してしまったりする場合、慰謝料を請求できるでしょうか。

この点については、介護が原因でうつ病になったというだけでは慰謝料を請求することはできません。

ただ、介護に関連して、配偶者のかかわり方や発言などによって、配偶者の方に破綻に至る主な原因があるという点が認定されれば、配偶者に対して離婚慰謝料を請求できる可能性はあります。

この点については、弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

6 さいごに

介護で悩んでいる方は、一人で悩まずに必ず誰かに相談してください。

孤独で理解されない辛い介護をしながらも、介護が嫌だからといって離婚するというのが果たして許されるのかという罪悪感にさいなまれ、心身ともに疲弊してしまう方は多いです。

そんな方は、介護自体の問題なのか、介護をきっかけとした夫婦の問題なのか、きちんと整理できていないことが多いです。

介護のために自分の人生をすべて犠牲にする必要はありません。

自分の希望する人生はどんなものか、そのためにどのような行動を取ればいいかを具体的に考えていきましょう。

 大阪和音法律事務所では、数多くの離婚問題を扱っており、介護で悩んでいる方の離婚相談も多数お受けしています。

 一人で悩まずに、まずはご相談ください。

(執筆者:弁護士田保雄三)

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