「仕事をするな」という夫はモラハラになるのか?

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はじめに

モラハラとは、言葉や態度で繰り返し相手を傷つける精神的な暴力のことです。

 

モラハラに関するご相談の中では、「夫が仕事をさせてくれない」というものがあります。

もちろん、仕事をさせないことだけですぐにモラハラというわけではありませんが、実際、「妻に仕事をさせない」というのは、モラハラ夫の特徴としてよく見られるものです。

 

妻からすれば、当然、「どうして仕事をさせてくれないのか。私も家計に貢献したいのに」という疑問を抱くことになります。しかし、モラハラ夫の心理やその真の目的を理解すれば、仕事をさせてくれないのは当然です。

 

どうしてモラハラ夫は妻に仕事をさせたくないのでしょうか。

その心理は何なのでしょうか。それを以下で見ていきましょう。

 

なぜモラハラ夫は妻に仕事をさせたくないのか

(1)モラハラ夫の心理

モラハラ夫の心理は、一言でいうと、妻を自分の支配下に置き、自分の意のままに言うことを聞かせることで、自分の自尊心や劣等感を回復する、ということです。

 

モラハラ夫は、自分自身がモラハラ環境下で育っていることが多いです。

親がいつも機嫌が悪い、いつも叱られたり暴力を振るわれたり、条件付きの愛情しか与えられない幼少期を過ごすと、常に親の顔色を窺い、不安を抱え、親の愛情を得るために親の望む姿、いわゆる「よい子」でいることで愛されようとします。

 

でも、「ありのままの自分」では親に受け入れてもらえない、「ありのままの自分には価値がない」という自尊心の低い大人になりがちです。

その結果、他者からの賞賛や評価によって自分の価値を感じようとして、外面が良くなる傾向があります。

 

同時に、心の中では劣等感や不安感、憎しみを常に抱えており、その心は常に不安定です。そのため、身近に自分より低い立場の者を作り、絶えず支配し、いじめることで、自分の方が偉い、自分のほうが上だ、という関係を確立させ、自尊心を満足させることで、心の安定を保つ必要があるのです。

その結果、モラハラ夫の心理は次のような形で具体化していくことになります。

 

(2)経済的優位性の確保

常に妻に対して優位に立ち、妻を支配するため、モラハラ夫にとって最も重要なのが、経済力を背景に妻に対して優位に立つことです。

 

例えば、「誰のおかげでメシが食えると思っているんだ」「俺にものが言いたかったら俺と同じくらい稼いでから言え」といった発言が典型です。

そうすると、妻が仕事を始め、収入を得るようになってしまうと、自分の経済的な優位性が崩れてしまい、経済的に支配関係に立つことができなくなります

だから、妻が仕事をすることに良い顔をしないのです。

 

(3)家事・育児に関する優位性の確保

モラハラ夫は、「自分が養ってやっているのだから、基本的に家事・育児は妻が全て完璧に行うべきだ」という考えを持っています。要は、都合の良い家政婦のような位置づけです。そのため、少しでも家事や育児ができていないところがあれば、細かくあれこれと指摘します。

 

しかし、妻が仕事を開始すれば、どうなるでしょうか。

当然、モラハラ夫が気に入る高いレベルの家事・育児を維持することはできなくなります。また、仕事をして稼いでいるのだから、家事育児のことについて偉そうにも言いづらくなります。

 

このように、妻が仕事を始めてしまうと、家事育児について優位性を保てなくなるばかりか、経済的な優位性も保ちにくくなるわけですから、モラハラ夫にとっては、妻が仕事を始めることには様々な不都合があるのです。

モラハラ夫の心理を理解すれば、妻が仕事をさせないのは当然といえるでしょう。

 

(4)外部との遮断

モラハラ夫にとって、次に重要なのが、妻が外部の第三者と接触するのを遮断することです。

 

モラハラ夫にとっては、妻に対する優位関係・支配関係を維持するため、妻には「自分はダメな妻だから、夫の言うことを聞かなければいけない」という考えを根付かせる必要があります。いわば、洗脳に近い状態です。

このようにして、モラハラ夫は、妻から相談できる人との関係を断ち切らせ、自分以外の判断基準をなくしていくのです。

 

それなのに、妻が仕事を始めてしまうと、どうなるでしょうか。

仕事を始めると、必然的に外部の第三者と接触することになります。

上司や同僚などから「ご主人の考えは、おかしいよ」などといわれ、妻が別の判断基準を得てしまう可能性もあります。

 

そうすると、「夫の言うことが絶対」「夫の言うことを聞かなければいけない」という考えのもと支配関係を維持する、という構図が崩れてしまうのです。

同じことは、実家や友人との関係についても同様です。

そのため、モラハラ夫は、妻が仕事をすることだけではなく、実家との関係や友人との関係も制限する傾向があるのです。

 

(5)嫉妬心・独占欲からの束縛

妻が仕事に出ることは、外部との接触を持つことですから、職場を通じた様々な男性とも関わりが発生します。

 

しかし、それは、妻が自分以外の男性の影響を受け、自分の支配から逸脱する可能性のある行動なので、モラハラ夫にとっては許せません。したがって、仕事を始めることは許せない、ということになります。

 

また、友人や職場の男性とラインで会話する程度の、不倫とは呼べない行為であっても不倫を疑い、行動を逐一チェックしたり報告させたりして、束縛を強めます。

 

モラハラ夫は心理的に妻に依存していますから、異常ともいえる嫉妬心・独占欲を持っています。それは、「妻を愛しているから」ではなく、実際は「支配関係を維持するため」なのですが、その本音の心理を見抜くのは、非常に難しいです。

なぜなら、モラハラ夫は、妻を愛している言動を行うことも少なくないからです。何か問題が起こったときは泣いたり土下座して謝ったりもします。

 

このような言動を見ると、さまざまなモラハラの限りを尽くしていても、本心では妻を愛しているとも思えます。ここが、モラハラのわかりにくいところです。

しかし、本当に愛しているのであれば、異常な嫉妬心で妻を束縛することで妻の自由を奪うことをするはずがありません。モラハラをする夫は、「妻に対する依存心・執着心」を、「妻に対する愛情」だと自分自身が錯覚しているのです。実態は妻を束縛し、苦しめているだけであったとしても、自分自身は本気で「妻のため」と思い、「お前のため」「家族のため」というモラルを盾にして論理を組み立てているので、自分の言動に問題があるとは気づかないのです。

 

仕事を始めることが脱却への第一歩

このように、モラハラ夫の心理を理解すれば、仕事をさせてくれないのは当然です。

「どうして仕事をさせてくれないのか。私も家計に貢献したいのに」と疑問に思っていた方は、この疑問が解けたのではないでしょうか。

 

モラハラ夫の言う通り、仕事をせずに家にいることは、モラハラ夫からの支配を受け続け、外部との接触をなくし、ご自身が自信を失っていくだけの結果となります。

仕事をしたいのであれば、まずは仕事を始めること。そうやって、経済力だけではなく、夫以外の判断基準を手に入れ、自分に自信を取り戻すことこそ、モラハラ夫から抜け出す為の第一歩です。

様々な価値観に触れ、家事・育児以外のやりがいを見つけたり、社会での自分の生きがいや貢献感を得て、自分に自信を取り戻してください。

モラハラ夫と生活する妻は、自信を失っています。

日々、唯一の居場所である家庭での家事育児について「お前はダメな妻」「ダメな母親」といわれ続けているのですから、当然です。

 

モラハラ夫に依存した経済状況を抜け出し、自らの力で新しい人生を切り開いていきましょう。

大阪和音法律事務所では、モラハラ夫を相手とする離婚案件を多数ご依頼いただいております。

モラハラ夫から「仕事をするな」と言われている方は、一度当事務所にご相談下さい。 

(執筆:弁護士田保雄三)

 

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