夫のアスペルガーは離婚理由になるか?慰謝料・親権の法的論点

目次

夫婦で会話をしているときに、「話が通じない」と感じたり、日々の言動から「悪気がないのは分かるけど、もう限界…」と思ったりしたことはありませんか?

 

そのような場合、パートナーが「アスペルガー症候群」である可能性があります。

 

また、そのような苦しみを誰も理解してくれないという孤独感から、「カサンドラ症候群」に陥っていませんか?

 

本ページでは、夫がアスペルガー症候群であることが離婚理由となるかを中心に、離婚に関する論点(慰謝料、親権)について解説します。

なぜ結婚生活が困難に?「アスペルガー症候群」の特性と「カサンドラ症候群」

コミュニケーションのすれ違いを生む特性

アスペルガー症候群は発達障害の一つであり、知的能力は高く専門的な分野では高い能力を発揮することが多いものの、社会的コミュニケーションや対人関係に障害があるのが特徴です。

 

アスペルガー症候群の人は、相手が自身の言動によりどのように感じるのかを考えることができず、コミュニケーションが一方的であるため、円滑なコミュニケーションを図ることが難しい面があります。

 

そのため、夫がアスペルガー症候群である場合、日々の生活の中で話がかみ合わず、コミュニケーションにすれ違いが生じることがあるのです。

孤立感や自己肯定感の低下を招く「カサンドラ症候群」とは?

パートナーがアスペルガー症候群の場合、コミュニケーションをうまくとることが出来ないことで不安障害や抑うつ状態といった症状が起きる可能性があり、このような状態のことを「カサンドラ症候群」と言います。

 

パートナーに自分の思いを理解してもらえず孤独感を抱いたり、否定的なことばかりを言われて自己肯定感が低下したりしている場合には、あなたは「カサンドラ症候群」になっているかもしれません。

 

夫がアスペルガーというだけでは離婚理由にならない

法律が定める5つの離婚理由(法定離婚事由)

離婚には協議離婚、調停離婚、裁判離婚という3つの種類があります。

 

このうち、協議離婚、調停離婚は夫婦双方で離婚することや離婚条件に関して合意ができない限り成立しません。

 

そのため、夫が離婚を拒否しているあるいは離婚条件について合意ができないという場合には裁判離婚を目指すしかないことになりますが、裁判離婚が認められるためには法律が定める離婚理由(法定離婚事由)が必要になります。

 

法律が定める離婚理由は、

  • ①不貞行為
  • ②悪意の遺棄
  • ③3年以上の生死不明
  • ④強度の精神病
  • ⑤婚姻を継続し難い重大な事由

の5つになります。

 

なお、このうち④強度の精神病は法律の改正により令和8年5月までに削除される予定ですので、今後は①~③あるいは⑤の4つの離婚理由いずれかに該当すると裁判官が判断した場合に裁判離婚が認められることになります。

 

そのため、以下では、改正後の4つの離婚理由のいずれかに該当する場合に裁判離婚が認められるという前提の下で話を進めます。

発達障害の特性は「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるか?

では、夫がアスペルガー症候群のような発達障害に当たる場合に法定離婚事由は認められるのでしょうか?

 

結論からいえば、夫が発達障害の特性を持っていることのみで法定離婚事由が認められるわけではありません。

 

アスペルガー症候群に起因したモラハラやコミュニケーション不全が婚姻関係破綻の一要素と評価される可能性はありますが、それを超えて婚姻関係が破綻している、つまり法定離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認定されるかどうかが重要なポイントになるのです。

 

では、どのような場合に「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるのでしょうか?

 

以下では、アスペルガー症候群の夫との離婚が認められる具体的なケースを解説します。

 

アスペルガーの夫との離婚が認められる具体的なケース

相手が離婚に同意している場合(協議・調停)

相手が離婚に同意している場合には、法律が定める離婚理由がなくても離婚することが可能です。

 

この場合には、夫婦間での話し合いでの離婚(協議離婚)あるいは裁判所を利用した話し合いである調停手続での離婚(調停離婚)のいずれかにより離婚することが可能であり、法定離婚事由がなくても離婚することができます。

 

コミュニケーション不全が「婚姻関係の破綻」と判断される場合

コミュニケーション不全に起因して婚姻関係が回復不能なまでに破綻していると判断されれば「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性があります。

 

この場合、コミュニケーション不全が生じていると主張するだけでは具体性を欠きますので、コミュニケーション不全に起因して夫婦喧嘩が絶えない、長期間の別居が開始しているなどの事情を複合的に主張していく必要があります。

その他の法定離婚事由(不貞行為など)がある場合

不貞行為がある場合には、それ自体が婚姻関係の破綻を基礎づけることから法定離婚事由が認められ裁判離婚が可能になります。

 

また、モラハラや経済的DV、生活費を渡さないなどの事情がある場合、これが「悪意の遺棄」と評価されれば法定離婚理由が認められ、裁判離婚が可能となります。

 

夫婦は互いに扶助・協力する義務を負っており、これらの義務を怠った場合には「悪意の遺棄」と評価されることがあります。

 

「悪意の遺棄」との認定を受けられるケースは少ないですが、事案によっては「悪意の遺棄」との認定を受けられる可能性はあります。

離婚を決断する前に検討すべきこと

夫婦カウンセリングや専門機関への相談

アスペルガー症候群の人には、相手の気持ちを考えられていないという認識がないことがよくあります。

 

そのため、夫婦関係の修復を図りたいと考える場合には1度夫婦カウンセリングや専門機関に相談することをおすすめします。

 

夫婦カウンセリングの受診や専門機関への相談によりパートナーが自身の行動を顧みるきっかけとなり、夫婦関係を修復する第1歩となるかもしれません。

まずは「別居」という選択肢と、その間の生活費(婚姻費用)

もはや夫婦関係を修復することはできない、離婚したいと考える場合にはまずは別居を開始することを検討してみることが必要です。

 

婚姻関係が破綻していると客観的に評価されやすいのは別居状態が長期間続いているという事情であり、「長期間の別居」があることによって法定離婚事由が認められる可能性が出てくるのです。

 

そして、夫婦である間は別居中の生活費(婚姻費用)を請求することができますので、別居を開始した場合にはできるだけ早い段階で相手に婚姻費用を請求できないかを検討すべきです。

 

なお、お子様がいる場合の別居に関しては、様々な考慮が必要ですので、事前に弁護士にご相談ください。

離婚を有利に進めるための手続きと弁護士の役割

ステップ① 証拠の収集:何が「婚姻破綻」の証拠になるか(日記、録音等)

婚姻関係が既に破綻していると裁判所に評価してもらうためには証拠が必要になります。

 

たとえば、パートナーから暴行を受けた際にできた傷の診断書や傷の写真があればDVを受けていたことの証拠になります。

 

また、日々の生活の中でパートナーから暴言を吐かれた際の記録を日記につけるあるいはその場面を録音していれば、継続的にモラハラを受けていたことの立証に使えます。

 

このような証拠を離婚の協議に入る前にできる限り収集しておくことが重要です。

ステップ② 話し合い(離婚協議):弁護士が代理人となるメリット

夫婦双方で離婚に関する話し合い(離婚協議)をするとなると、お互い感情的になりなかなか話が前に進まないということがよくあります。

 

その場合、弁護士が代理人となって相手と話をしていくことで、離婚条件に関する具体的な話し合いを客観的な視点から行っていくことができます。

 

また、相手との連絡の窓口は弁護士となりますので、相手と直接やりとりを行う必要がなくなります。

 

その点で精神的負担を軽減することができ、ご自身がしなければならないこと(仕事や子供の対応)に集中できるというメリットがあります。

 

ステップ③ 法的措置(離婚調停・裁判):調停や裁判での注意点

夫婦間で話し合いをしても話が進まないという場合には、次の段階である離婚調停に進むことになります。

 

調停は裁判所を利用した手続にはなりますが、調停委員を介して夫婦双方で話し合いをしていくものですので、その本質は話し合いです。

 

裁判所が離婚を認める・認めないという判断をするわけではないため、離婚を相手が拒否しているあるいは離婚条件について合意ができないという場合には調停では離婚は成立しません。

 

調停が不成立となって終了した場合には、裁判離婚を目指すことになります。

 

裁判離婚が認められるためにはすでに述べた法定離婚事由が必要になりますので、離婚したい側が、法定離婚事由があることを主張・立証していくことになります。

 

お金の問題:慰謝料と財産分与の考え方

アスペルガーを理由とする慰謝料請求は可能か?

夫がアスペルガー症候群であることのみから慰謝料請求をすることはできませんが、夫のアスペルガー症候群に起因する行動により損害を受けた場合には慰謝料請求が可能になる場合があります。

夫の特性に起因するDVやモラハラがあった場合の慰謝料

夫の特性に起因するDVやモラハラがあった場合、夫がDVやモラハラの事実を認め、任意に慰謝料を支払うというのであれば慰謝料を得ることができますが、残念ながらDVやモラハラの事実を夫が自ら認めることは多くありません。

 

そのため、夫からDVやモラハラを受けたことを立証できるだけの証拠があってはじめて慰謝料請求をすることができるということになります。

 

また、DVやモラハラによる慰謝料は不貞と比べて金額が大きくなることは多くないため、後述する財産分与を請求することが離婚後の生活の安定を図るために重要になります。

財産分与はきっちり請求する

離婚の際には財産分与を請求することができます。

 

財産分与は、夫婦が婚姻期間中に築き上げた財産を折半して清算する手続であり、きっちりと請求することが重要です。

 

子どもの問題:親権・養育費・面会交流

親権者を決める際に重視されること(夫の障害はどう影響する?)

親権者を決める際に最も重要となるのは夫婦のどちらが子どもをメインで監護しているか(主たる監護者が夫婦のどちらか)という点です。

 

主たる監護者が問題なく子どもを監護している場合には、裁判所は主たる監護者が親権者としてふさわしいと判断することが通常です。

 

そのため、親権を取得するためには子どもの監護を問題なく続けていくことが最も重要です。

 

そして、夫の障害により夫が子どもの面倒を全く見ないなど家事・育児に問題があるという場合には夫が親権者として適切ではないという判断に傾きやすいといえます。

養育費の算定と支払い確保の方法

離婚の際には適正な金額の養育費を定めることが重要です。

 

養育費の金額は夫婦双方の収入を認定したうえで算定表にこれらを当てはめて算出されます。

 

養育費は子供が未成熟である間継続的に支払ってもらうものになりますので、確実に支払いを確保するために不払いが発生した場合に相手の財産を差し押さえることができるようにしておく必要があります(これを強制執行といいます)。

 

強制執行ができるようにするためには、公正証書により養育費の合意をする、調停において養育費の取り決めを行うなどしておくことが必要です。

 

(なお、令和8年施行の改正民法で導入される法定養育費制度が妥当するケースでは、公正証書や調停調書がなくても差し押さえができる可能性があります)

子どものための面会交流のルール作り

子どもを監護していない親が子供と交流する面会交流を実施するに当たってはしっかりとしたルールを取り決めることが重要です。

 

子どもの前で他方の親の悪口を言わない、高額なプレゼントを渡さないといった基本的な事項についてもしっかりと取り決めを行いましょう。

 

離婚のご相談は大阪和音法律事務所へ

 

夫がアスペルガー症候群の場合、ご自身で離婚協議を行うことには大きな精神的負担が伴うことが想定されます。

 

大阪和音法律事務所では、各弁護士の知識・ノウハウを共有して事案解決にあたっています。

 

一人で抱え込まず、あなたの味方になる弁護士にご相談ください。

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