「オーバーローンの不動産は財産分与でどのように扱われる?」

 離婚協議を行う際、夫婦が財産を持っていれば、その財産をどのように分与するかという点についても協議を行う必要があります。たとえば、結婚後に不動産を購入したご夫婦の場合、離婚に際して、その不動産を具体的にどのように分与するか協議を行うケースが多いです。

 不動産について財産分与を行う際、特に問題が生じやすいのは、「その不動産を売却した場合の売却額よりも住宅ローン残高の方が多い場合」(いわゆるオーバーローンの場合)です。

 オーバーローンになっている場合、その不動産はどのように財産分与されることになるのでしょうか。次の3つの観点から具体的に解説したいと思います。

 

① 離婚時の住宅ローン残高は、夫婦でそれぞれ半分ずつ負担しなければならないのか?

② 離婚までに支払ってきたローン返済額はどのように処理するか?

③ 不動産とその他の財産の通算はするべきなのか?

 

1①離婚時の住宅ローン残高は、
夫婦でそれぞれ半分ずつ負担しなければならないのか?

 オーバーローンの場合、離婚時の住宅ローン残高は、夫婦でそれぞれ半分ずつ負担しなければならないのでしょうか。

大阪高等裁判所決定平成20年7月9日では、「(離婚時において住宅がオーバーローン状態にある)場合、住宅の価値は零であって、積極財産として存在していないと言わざるを得ない。そうすると、清算すべき資産がないのであるから、残存する住宅ローンの一部を財産分与の対象とすることはできないというべきである。」と判断されています。

 つまり、一方配偶者が住宅ローンの借入れを行っている場合、「不動産の価値よりも住宅ローン残高が多く、売却したとしても負債しか残らないという状態においては、他方配偶者が住宅ローンの返済の負担を求められることはない」ということです。

 

 ここで、まず大前提として、住宅ローンの債権者である金融機関と債務者の関係夫婦間の関係は全く別次元の問題だということを押さえておきましょう。

 住宅ローンは銀行と債務者の間の契約であり、夫婦が離婚したとしても、銀行と債務者の間の契約内容に影響は及びません。つまり、離婚前に夫が住宅ローンの債務者であった場合は、たとえ夫婦が離婚したとしても、夫が銀行に対して住宅ローンを負っていることや、その債務額に変更は生じません。

 先ほどご紹介した大阪高等裁判所の決定において、不動産がオーバーローンの場合に、「銀行に対しては債務者である夫が引き続き債務を負い、それだけではなく、夫婦の内部でもその債務の分担を求めることはできない」という判断をしています。

 

2 離婚までに支払ってきたローン返済額はどのように処理するか?

 たとえ唯一の財産がオーバーローンの不動産であるとしても、これまで夫婦の一方が住宅ローンの支払いを続けてきたからこそ、住宅ローン債務の残高は当初に比べれば減ってきたと言えます。

 では、オーバーローンの場合に、一方配偶者が既に払ったローンについて他方配偶者に一部分担を求めることはできるのでしょうか

 この点については、東京高等裁判所決定平成10年3月13日において、「夫婦の協力によって住宅ローンの一部を返済したとしても、本件においては、当該住宅の価値は負債を上回るものではなく、住宅の価値は零(ゼロ)であって、右返済の結果は積極財産として存在していない。そうすると、清算すべき資産がないのであるから、返済した住宅ローンの一部を財産分与の対象とすることはできないといわざるをえない。」と判断されています。

 やはり、「プラス部分がない以上は分けるべきものはない」という理屈が採用されています。

 これらの裁判例からわかるように、実務上は、「夫婦の唯一の財産である 不動産がオーバーローンの場合、夫婦が形成したプラスの財産はないので、当該不動産を財産分与の対象とすることはできない」ということになります。さらには、住宅ローンの債務者である配偶者から他方配偶者に対して、以下のような請求をすることも認められないとされています。

 

・それまでに既に返済したローンの一部の分担を求める請求

・残債務の分担を求める請求

・住宅ローンについて何らかの金銭の支払を求める請求

 

ただし、注意点があります。それが、次に述べる不動産とその他の財産の通算の問題です。

 

3 不動産とその他の財産の通算の問題はどうなるのか?

 不動産のみに限るとオーバーローンとなっているが、それ以外の金融資産(預貯金など)が多く存在するため、資産の全体としては相当プラスとなるというケースもあり得ます。例えば、「夫名義の不動産の評価額が1000万、住宅ローン(夫が債務者)が2000万でオーバーローンだが、夫婦名義の預貯金が合計で3000万ある」(財産全体の評価は2000万のプラスとなる)というようなケースです。

 この場合は以下の①②のように処理することになります。

 

住宅ローンの負債額も含めて通算して全体額を出す(不動産と住宅ローンを除外して財産分与を行うわけではない)。

②その結果、財産全体としてプラスとなる場合は、そのプラスの金額を折半した金額の財産を夫婦それぞれが取得するように、不動産や住宅ローンも含めて財産分与を行う

 

 上記の例で言えば、たとえば、夫が不動産を所有(+1000万円)し、住宅ローンも全額負担(-2000万円)しつつ、預貯金のうち2000万円を取得する。妻は預貯金の残り1000万円を取得するという処理を行うことになります。

 

 他方で、「オーバーローン不動産以外にプラスの資産があるが、全体としてはマイナスになる」という場合は事案によって結論が変わってきます。

 例えば、「不動産の評価額が1000万、ローンが3000万で、預貯金が1000万ある」というような場合です。

 この場合、「オーバーローン不動産とその他の財産を通算すべきか」という点については、様々な見解があり、事案によって裁判例も結論が異なります。

 この点について、「詳細な主張をどのように行っていくか」については、ご自身で対応するのは難しいと思います。

 必ず、離婚問題に詳しい弁護士に相談するようにしてください。

 

 離婚するにあたって不動産とローンの問題は切っても切り離すことができません。

 そして、不動産とローンの問題はかなり複雑です。

 正しい知識を得て戦略を考える、相手方の無茶な主張に惑わされない、ということが大切です。

 特に財産分与にあたって不動産の処理が必要な場合は、戦略を考え、法的主張をきちんと行う必要があるので、必ず離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

(執筆:弁護士田保雄三)

                              

 

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